第19回 力の正体⑧ 摩擦力

第2章 力の正体
黒沼先生
黒沼先生

黒沼 電蔵
物理の教鞭をとっている
休日は大抵何をしてたか覚えてない

波多野さん
波多野さん

波多野さん
勉強が苦手な女の子
休日はお母さんとお買い物

光井 くん
光井 くん

光井くん
勉強が得意な男の子
休日は図書館で勉強

はじめに

黒沼先生
黒沼先生

今日は、二人にこの箱を押してもらおう。

波多野さん
波多野さん

これくらいなら簡単そう!
それっ!

波多野さん
波多野さん

……あれ?
押しているのに動かないよ。

光井くん
光井くん

箱を押す力とは反対向きに、別の力がはたらいているようですね。

黒沼先生
黒沼先生

うむ。その力が摩擦力じゃ。

波多野さん
波多野さん

でも、一度滑りだしたら一人でも動かせるよ?
なんでぇ?

黒沼先生
黒沼先生

そこが今回のポイントじゃ。
箱が滑り出す前と、滑っている最中では、摩擦力の性質が異なる。
今回は、静止摩擦力・最大摩擦力・動摩擦力について学んでいこう。

摩擦力とは

黒沼先生
黒沼先生

物体が面と接しているとき物体の運動を妨げるようにはたらく力を、摩擦力という。

波多野さん
波多野さん

物体が動く向きと反対向きにはたらくんだね。

黒沼先生
黒沼先生

うむ。
より正確には接触面で滑っている向き、または滑ろうとする向きと反対向きにはたらくのじゃ。

波多野さん
波多野さん

滑ろうとする向き?

光井くん
光井くん

まだ動いていない物体にも、摩擦力がはたらくことがあるからだね。

摩擦力を見てみよう

黒沼先生
黒沼先生

まずは、摩擦力の変化を見てみよう。このアニメーションでは、床を次の二つから選べるぞ。

  • 滑りやすい
  • 滑りにくい

青い矢印は箱を押す力 (F)、赤い矢印は摩擦力 (f) を表しておる。
右側には、加える力と摩擦力の関係を表すグラフが表示されるぞ。

滑りにくい床で試してみよう

黒沼先生
黒沼先生

最初は「滑りにくい」を選び「スタート」を押してみるのじゃ。

波多野さん
波多野さん

押す力の矢印も摩擦力の矢印も同じように長くなってるね。

光井くん
光井くん

箱が止まっている間は、押す力と摩擦力がつり合っているということですね。

黒沼先生
黒沼先生

その通りじゃ。
だから、このときの水平方向の合力は \(0\) になる。
\(F-f=0\)

よって、

\(\boxed{f=F}\)

となるのじゃ。

波多野さん
波多野さん

押す力が大きくなると、摩擦力も同じだけ大きくなるんだ!

静止摩擦力

黒沼先生
黒沼先生

このように、物体が滑り出す前にはたらく摩擦力を静止摩擦力という。

光井くん
光井くん

静止摩擦力には、最初から決まった大きさがあるわけではないんですね。

黒沼先生
黒沼先生

うむ、箱が静止している間は、加えられた力に応じて大きさが変化するのじゃ。

光井くん
光井くん

箱を動かさないために必要な大きさだけ、静止摩擦力がはたらくということですね。

黒沼先生
黒沼先生

ただし、静止摩擦力はどこまでも大きくなれるわけではないぞ。
何事にも限界というものがあるのじゃ。

最大静止摩擦力

波多野さん
波多野さん

あっ!
押す力を大きくしていったら、箱が動き始めた!

黒沼先生
黒沼先生

静止摩擦力には限界がある。
箱が滑り出す直前の静止摩擦力を、最大静止摩擦力というのじゃ。
最大静止摩擦力の大きさを \(f_0\)、垂直抗力を \(N\) とすると、

\(\boxed{f_0=\mu_0N}\)

と表される。
ここで、\(\mu_0\) は静止摩擦係数じゃ。

波多野さん
波多野さん

静止摩擦係数?

黒沼先生
黒沼先生

接触している2つの物質の「滑りにくさ」を表す指標のことじゃよ。値が大きくなるほど動き出しにくくなるぞ。

光井くん
光井くん

静止摩擦力が最大静止摩擦力を超えたから、箱が動いたということでしょうか?

黒沼先生
黒沼先生

ふふふ。ふぁーはっはっはっは!!かかったな!ぶぁかめ!!
静止摩擦力そのものが最大静止摩擦力を超えることはないのだ。
加える力が最大静止摩擦力を超えるとつり合いが崩れて箱が滑り始めるのじゃ。

光井くん
光井くん

生徒を馬鹿にするのはいかがなものかと…。

※注意)生徒を馬鹿にする行為は教育の場において不適切であり、あってはならないことです。 このような行為は信頼関係を壊すだけでなく、生徒の学習意欲の低下や精神的苦痛を与える恐れがあります。このおっさんに対してはしかるべき措置が取られることになるでしょう。

黒沼先生
黒沼先生

静止摩擦力の大きさは、

\(\boxed{f\leqq\mu_0N}\)

の範囲で変化するということじゃ。

波多野さん
波多野さん

ということは、箱が止まっているときの摩擦力はいつも \(f=\mu_0N\) で表されるわけじゃないんだね。

黒沼先生
黒沼先生

そうじゃ。先ほども言った通り、静止摩擦力は加えられた力に応じて大きさが変化するのじゃ。
例えば、最大静止摩擦力が \(10\ \mathrm{N}\) であっても、箱を \(3\ \mathrm{N}\) で押しているなら、静止摩擦力は \(3\ \mathrm{N}\) じゃ。

波多野さん
波多野さん

最大静止摩擦力は、静止摩擦力の上限と考えるんだね!

動摩擦力

黒沼先生
黒沼先生

箱が滑り始めたあとの赤い矢印と、グラフに注目してみよう。

波多野さん
波多野さん

滑り始めたら、摩擦力が小さくなった!

黒沼先生
黒沼先生

このように物体が滑っているときにはたらく摩擦力を動摩擦力というのじゃ。
動摩擦力の大きさを (f’) とすると、

\(\boxed{f’=\mu’N}\)

と表される。
\(\mu’\) は動摩擦係数じゃ。

波多野さん
波多野さん

動摩擦係数?

光井くん
光井くん

動いている物体をそのまま滑らせ続けるときの「滑りにくさ」を表す指標ですね。
一般に、動摩擦係数は静止摩擦係数より小さくなります。
そのため、動摩擦力は最大摩擦力より小さくなるのですね。

黒沼先生
黒沼先生

その通りじゃ。
先ほどの箱も一度動き始めると動かしやすく感じたじゃろ?
これは、動摩擦力が最大摩擦力より小さいためじゃ。

滑りやすい床と比べよう

黒沼先生
黒沼先生

次は「リセット」を押してから、「滑りやすい」を選んで再生してみよう。

波多野さん
波多野さん

滑りやすい床では静止摩擦係数が小さいから、さっきより弱い力で箱が滑り始めるんだね。

黒沼先生
黒沼先生

そういうことじゃ。
最大摩擦力は、

\(f_0=\mu_0N\)

で表されるため、垂直抗力が同じなら静止摩擦係数 \(\mu_0\) が小さいほど最大静止摩擦力も小さくなる。

摩擦係数の単位

黒沼先生
黒沼先生

静止摩擦係数 \(\mu_0\) と動摩擦係数 \(\mu’\) は、接触する物体や面の材質、表面の状態によって変わる。
先ほども言った通り、滑りにくい組み合わせでは摩擦係数が大きく、滑りやすい組み合わせでは小さくなるのじゃ。

波多野さん
波多野さん

摩擦係数に単位はあるの?

黒沼先生
黒沼先生

最大静止摩擦力の式を変形すると、

\(\mu_0=\frac{f_0}{N}\)

となる。
分子と分母はどちらも力であり単位はニュートンじゃ。割り算をすると単位が消えるため、摩擦係数には単位がないということじゃ。

光井くん
光井くん

摩擦係数は摩擦力と垂直抗力の比を表しているのですね。

垂直抗力が大きくなると?

黒沼先生
黒沼先生

同じ床の上で、箱の上におもりを載せたとしよう。
水平な床の上で鉛直方向の力がつり合っているなら、おもりを載せると垂直抗力 (N) が大きくなる。
最大静止摩擦力は、

\(f_0=\mu_0N\)

なので、垂直抗力が大きいほど最大摩擦力も大きくなる。

動摩擦力も、

\(f’=\mu’N\)

であるため、同じように大きくなるのじゃ。

波多野さん
波多野さん

重い箱ほど動かしにくいのは、垂直抗力が大きくなって、摩擦力も大きくなるからなんだね。

物体が斜面を滑る場合

黒沼先生
黒沼先生

次は、斜面に置かれた物体にはたらく摩擦力を考えてみよう。

波多野さん
波多野さん

斜面では、物体は下へ滑ろうとするよね。

黒沼先生
黒沼先生

うむ。そのため、摩擦力は物体が滑ろうとする向きとは反対の、斜面に沿った上向きにはたらくのじゃ。

光井くん
光井くん

斜面上の運動を考えるときは、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解すると分かりやすいですね。

黒沼先生
黒沼先生

重力 \(mg\) を分解すると、斜面に沿って下向きの成分は、

\(mg\sin\theta\)

斜面に垂直な成分は、

\(mg\cos\theta\)

となる。
したがって、垂直抗力 \(N\) は、

\(N=mg\cos\theta\)

じゃ。

まだ滑っていないとき

黒沼先生
黒沼先生

物体が静止している間は、斜面下向きの力 \(mg\sin\theta\) を打ち消すように、静止摩擦力がはたらく。

\(f=mg\sin\theta\)

波多野さん
波多野さん

斜面の角度を大きくすると、下向きに滑ろうとする力も大きくなるんだね。

黒沼先生
黒沼先生

うむ。そして、最大静止摩擦力は、

\(f_0=\mu_0N=\mu_0mg\cos\theta\)

じゃから、

\(mg\sin\theta \leq \mu_0mg\cos\theta\)

の間は、物体は斜面上に静止できる。

光井くん
光井くん

両辺を整理すると、

\(\tan\theta\leq\mu_0\)

ですね。

黒沼先生
黒沼先生

つまり、斜面の角度が大きくなって、

\(\tan\theta>\mu_0\)

となると、静止摩擦力では支えきれず物体が滑り始めるのじゃ。

滑り始めたあとは

黒沼先生
黒沼先生

物体が滑っている間は、動摩擦力が斜面に沿って上向きにはたらく。
その大きさは、

\(f’=\mu’N=\mu’mg\cos\theta\)

じゃ。
斜面下向きを正にすると、運動方程式は、

\(ma=mg\sin\theta-\mu’mg\cos\theta\)

したがって、加速度は、

\(\boxed{a=g(\sin\theta-\mu’\cos\theta)}\)

となる。

波多野さん
波多野さん

\(mg\sin\theta\)から動摩擦力を引いた合力で、物体が加速するんだね!

黒沼先生
黒沼先生

その通りじゃ。
斜面の問題では、まず「物体がどちらへ動こうとしているか」を考え、摩擦力をその反対向きに描くことが大切じゃよ。

摩擦力を考える手順

黒沼先生
黒沼先生

摩擦力を含む問題では、次の順番で整理するとよい。

  1. 注目する物体を決める
  2. 物体にはたらく力の矢印を描く
  3. 物体が静止しているか、滑っているかを確認する
  4. 滑っているまたは滑ろうとしている向きを考える
  5. その反対向きに摩擦力を描く
  6. 各方向の運動方程式を立てる
波多野さん
波多野さん

静止していたら静止摩擦力、滑っていたら動摩擦力を考えるんだね。

黒沼先生
黒沼先生

うむ。そして、静止しているからといって、すぐに \(f=\mu_0N\) としないことが重要じゃ。

光井くん
光井くん

静止摩擦力の大きさは\(\boxed{f\leqq\mu_0N}\)の範囲で変化するからですね。

今日のまとめ

黒沼先生
黒沼先生

今日のポイントを整理しておこう。

  • 摩擦力は、接触面で滑る動きや滑ろうとする動きを妨げる向きにはたらく
  • 滑り出す前には、静止摩擦力がはたらく
  • 静止摩擦力は、加える力に応じて大きさが変わる
  • 滑り出す直前の静止摩擦力を、最大静止摩擦力という
  • 最大静止摩擦力は、
    \(\boxed{f_0=\mu_0N}\)
  • 静止摩擦力の範囲は、
    \(\boxed{f\leqq\mu_0N}\)
  • 滑っている物体には、動摩擦力がはたらく
  • 動摩擦力は、
    \(\boxed{f’=\mu’N}\)
  • 一般に、動摩擦係数は静止摩擦係数より小さい
    \(\mu'<\mu_0\)
  • 物体の加速度は、摩擦力を含めた合力で決まる
光井くん
光井くん

物体が静止しているのか、滑っているのかを確認してから、摩擦力を考えることが重要ですね。

次回 エレベーター問題

黒沼先生
黒沼先生

二人とも、エレベーターに乗るぞ。
ついでに、この体重計も持っていくのじゃ。

波多野さん
波多野さん

エレベーターの中で体重を量るの?

黒沼先生
黒沼先生

うむ。動き始めた瞬間、体重計の値がどう変わるか確かめるぞ。
下に動き始めるとどうなると思う?

波多野さん
波多野さん

立っているだけなら、ずっと同じ数字じゃないの?

黒沼先生
黒沼先生

(ガクン!)
ひゃあっ! 軽くなった!
このまま空も飛べそうじゃ!

波多野さん
波多野さん

え!どうして⁈

黒沼先生
黒沼先生

つまり、下に動いているエレベーターに乗れば、わしも簡単に痩せられるということじゃな!

光井くん
光井くん

嘘をつかないでください。そう簡単に痩せられませんよ。
そもそも、健康的に痩せるための基本は……、 どーたら…、
   消費カロリーが摂取カロリーを……、こーたら…、食事の工夫や…、
   適度な運動を…、  あーだ…、
こーだ…、 ………

黒沼先生
黒沼先生

……夢のないことを言うのう。

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