第11回 運動の基本⑩ 斜方投射

第1章 運動の基本
黒沼先生
黒沼先生

黒沼 電蔵
物理の教鞭をとっている
洗濯は週2回

波多野さん
波多野さん

波多野さん
勉強が苦手な女の子
ママがやってくれる   

光井 くん
光井 くん

光井くん
勉強が得意な男の子
たまに手伝う

はじめに

黒沼先生
黒沼先生

今日は、このボールを遠くまで投げてみよう。

光井くん
光井くん

また肩を痛めても知りませんよ。

黒沼先生
黒沼先生

君のそういう態度が好かんのじゃ。
なめるな、クソガキが!!

黒沼先生
黒沼先生

まぁ、よい。
まずは低い角度でなげるぞ。……ほれっ!

波多野さん
波多野さん

横には速いけど、すぐ地面に落ちちゃったね。   

黒沼先生
黒沼先生

今度は高く投げてみよう。……そりゃっ!

波多野さん
波多野さん

高く上がった!
でも、さっきより近くに落ちたよ。 

光井くん
光井くん

遠くへ投げるには、低すぎても高すぎてもよくないということですね。
…肩、大丈夫ですか。

黒沼先生
黒沼先生

……痛めちゃった。

波多野さん
波多野さん

じゃあ、何度で投げると一番遠くまで飛ぶの?
もう一回投げてみてよ。

光井くん
光井くん

容赦ないな。

黒沼先生
黒沼先生

それを調べるのが、今回のテーマじゃ。
物体を斜め上向きに投げる運動「斜方投射」を勉強してみようかの。

まずは斜め上に投げてみよう

黒沼先生
黒沼先生

ボールの動きを実際に見てみよう。
初速度を20 m/s、投射角を45°にして、「投げる!」を押してみるのじゃ。

波多野さん
波多野さん

斜め上に進みながら高くなって、最高点を過ぎると落ちてきた!

光井くん
光井くん

第9回の鉛直投げ上げと、第10回の水平投射を組み合わせたような動きですね。

黒沼先生
黒沼先生

画面では、次の量を同時に確認できる。

  • 水平位置 \(x\)
  • 高さ \(y\)
  • 水平速度 \(v_x\)
  • 鉛直速度 \(v_y\)
  • 水平到達距離

もう一度動かして、水平速度と鉛直速度の変化を比べてみよう。

2つに分けて考えよう

初速度を2つに分けよう

波多野さん
波多野さん

もしかして、これも横方向と縦方向に分けて考えた方がいいの?

黒沼先生
黒沼先生

そうじゃ。斜め向きの運動は、そのままでは考えにくいからの。
そこで、まずは初速度 \(v_0\) を次の2つに分けるんじゃ。
・鉛直方向の初速度
・水平方向の初速度

黒沼先生
黒沼先生

投射角を \(\theta\) とすると、水平方向の初速度は、

\(\boxed{v_{0x}=v_0\cos\theta}\)

鉛直方向の初速度は、

\(\boxed{v_{0y}=v_0\sin\theta}\)

となる。

波多野さん
波多野さん

斜め向きの速度を、横向きと上向きに分けているんだね。

黒沼先生
黒沼先生

その通り。
分けた後は、水平方向と鉛直方向を別々に考えればよい。
これは水平投射で学んだ考え方と同じじゃ。

水平方向は等速運動

黒沼先生
黒沼先生

空気抵抗を無視すると、ボールには水平方向の力がはたらかない。そのため、水平速度は変化せず、

\(\boxed{v_x=v_0\cos\theta}\)
のままじゃ。
時間 \(t\) 後の水平位置は、

\(\boxed{x=v_0\cos\theta・t}\)

となる。

波多野さん
波多野さん

ボールが上昇しているときも、下降しているときも、水平速度は変わらないんだね。

鉛直方向は投げ上げ運動

黒沼先生
黒沼先生

次は鉛直方向じゃ。
ボールは最初から上向きの速度、\(v_0\sin\theta\)を持っている。
その後は、下向きの重力によって鉛直速度が小さくなっていく。上向きを正にすると、時間 \(t\) 後の鉛直速度は、

\(\boxed{v_y=v_0\sin\theta-gt}\)

高さは、

\(\boxed{y=v_0\sin\theta・t-\frac12gt^2}\)

で表されるのじゃ。

波多野さん
波多野さん

鉛直方向だけを見ると、第9回の鉛直投げ上げと同じなんだ!

黒沼先生
黒沼先生

その通りじゃ。斜方投射は特別な新しい運動ではない。
先ほど、どこかの生意気な小僧が言っておったように、水平方向の等速運動と、鉛直方向の投げ上げ運動を組み合わせたものなんじゃ。

光井くん
光井くん

僕のことですね…。

最高点では何が起こる?

黒沼先生
黒沼先生

では、最高点ではどのような運動になっているかな?

波多野さん
波多野さん

鉛直速度は \(v_y=0\)になってる。でも、水平速度は\(v_x=14.1 m/s\)のままだ。最高点でも、ボールは横に進んでいるんだね。

黒沼先生
黒沼先生

うむ。
斜方投射の最高点では、ボール全体の速度が0になるわけではない。0になるのは、鉛直方向の速度だけじゃ。

角度を変えて比べよう

黒沼先生
黒沼先生

次は投射角を変えてみよう。
初速度は20 m/sのまま、次の角度で投げてみるのじゃ。

  • 15°
  • 30°
  • 45°
  • 60°
  • 75°
波多野さん
波多野さん

15°だと、低くて横に伸びた軌道だね。
逆に75°だと、すごく高く上がるけど、あまり遠くまで進まないね。

黒沼先生
黒沼先生

投射角を小さくすると、水平方向の初速度が大きくなる。その代わり、鉛直方向の初速度が小さいため、空中にいる時間が短くなるんじゃ。
反対に、投射角を大きくすると、鉛直方向の初速度が大きくなる。高く上がって飛行時間も長くなるが、水平方向の初速度は小さくなる。

波多野さん
波多野さん

遠くまで飛ぶには、横へ進む速さと、空中にいる時間の両方が必要なんだね。

黒沼先生
黒沼先生

その通りじゃ。

30°と60°の飛距離を比べよう

黒沼先生
黒沼先生

「余角の軌道も表示」をオンにしてみよう。
投射角を30°にすると、もう一つ何度の軌道が表示されるかな?

波多野さん
波多野さん

60°!
でも、「余角」ってなに?

光井くん
光井くん

足すと90°になる角度を余角というんですよね。
この場合は、30°の余角は60°になります。

波多野さん
波多野さん

あっ!軌道は違うけど、同じ場所に着地した!

黒沼先生
黒沼先生

同じ初速度で、投げた場所と着地する場所の高さが同じなら、余角となる2つの角度では水平到達距離が等しくなるんじゃ。
例えば、

  • 15°と75°
  • 30°と60°

は、それぞれ同じ飛距離になるんじゃよ。

水平到達距離を決める式

黒沼先生
黒沼先生

投げた場所と同じ高さへ戻るまでの飛行時間は、

\(\boxed{T=\frac{2v_0\sin\theta}{g}}\)

で表される。ちなみに、導出はちょっと長いから光井くんやっといて。波多野さんはこっちでお菓子でもいかがかな?

光井くん
光井くん

上向きを正、投げた位置を \(y=0\) とします。初速度の鉛直成分は\[ v_{0y}=v_0\sin\theta \]

です。鉛直方向の位置は、鉛直投げ上げ運動の式から\[ y=v_0\sin\theta\,t-\frac{1}{2}gt^2 \]

と表せます。

投げた場所と同じ高さへ戻ったときは \(y=0\) なので、\[ 0=v_0\sin\theta\,t-\frac{1}{2}gt^2 \]

右辺を \(t\) でくくると、\[ 0=t\left(v_0\sin\theta-\frac{1}{2}gt\right) \]

したがって、\[ t=0 \]

または\[ v_0\sin\theta-\frac{1}{2}gt=0 \]

となります。\(t=0\) は投げた瞬間を表すため、戻ってきた時刻について解くと、\[ \frac{1}{2}gt=v_0\sin\theta \]\[ \boxed{T=\frac{2v_0\sin\theta}{g}} \]

となります。

黒沼先生
黒沼先生

水平到達距離はもとの位置に戻るまでの時間\(T\)で進んだ距離じゃ。水平到達距離\(L\)は、
\(\boxed{L=v_0\cos\theta・T}\)

じゃ。これを整理すると、

\(\boxed{L=\frac{v_0^2\sin2\theta}{g}}\)

となるのじゃ。

光井くん
光井くん

ここでは、三角関数の2倍角の公式\[ \boxed{\sin 2\theta=2\sin\theta\cos\theta} \]を使ってますね。

波多野さん
波多野さん

投げた時の角度は\(\sin2\theta\) の部分に入っているんだね(もぐもぐ)。

黒沼先生
黒沼先生

うむ。
\(\sin2\theta\) が最も大きくなるのは、\(2\theta=90^\circ\)のときじゃ。
したがって、

\(\boxed{\theta=45^\circ}\)

のとき、水平到達距離が最大になるのじゃ。

黒沼先生
黒沼先生

ただし、45°で飛距離が最大になるのは、次の条件で考えた場合じゃ。
・重力加速度が一定
・空気抵抗を無視する
・投げた場所と着地する場所の高さが同じ

初速度を変えてみよう

黒沼先生
黒沼先生

次は角度を45°に固定して、初速度を変えてみよう。

  • 10 m/s
  • 20 m/s
  • 30 m/s

で比較してみるのじゃ。

波多野さん
波多野さん

初速度を大きくすると、最高点も飛距離も一気に大きくなった!

黒沼先生
黒沼先生

水平到達距離の式では、初速度\(v_0^2\)に比例しておる。
そのため、初速度を2倍にすると、水平到達距離は4倍になるんじゃ。

モンキーハンティング

黒沼先生
黒沼先生

有名な思考実験に、モンキーハンティングがある。
名前は少々物騒じゃが、授業ではボール発射装置とサルの模型を使って考えるぞ。
発射装置を、空中にあるサルの模型へまっすぐ向ける。そしてボールを発射すると同時に、模型を落下させるんじゃ。

光井くん
光井くん

銃声に驚いたサルが手を放して、落ちてしまうことを想定しているんですよね。

波多野さん
波多野さん

どんな発射速度でも命中しちゃう!
どうして?

黒沼先生
黒沼先生

ボールも模型も同じ時間だけ重力を受ける。すなわち、ボールと模型は同じだけ落下するということじゃ。
だから、最初の位置に照準を合わせておけば、落下した模型にも命中するのじゃよ。

光井くん
光井くん

ボールの斜方投射と、模型の自由落下を同時に考える実験なんですね。

今日のまとめ

黒沼先生
黒沼先生

今日のポイントを整理しよう。

波多野さん
波多野さん

斜方投射は難しそうに見えたけど、水平方向の等速運動と、鉛直方向の投げ上げ運動に分ければいいんだね!

・水平方向の初速度

\(\boxed{v_{0x}=v_0\cos\theta}\)

・鉛直方向の初速度

\(\boxed{v_{0y}=v_0\sin\theta}\)

・水平方向は等速運動→速度は一定
・鉛直方向は投げ上げ運動→重力によって速度が変化

黒沼先生
黒沼先生

そして、空気抵抗を無視し、投げた場所と着地する場所の高さが同じなら水平到達距離はこうなる。

・水平到達距離

\(\boxed{L=\frac{v_0^2\sin2\theta}{g}}\)

・余角では水平到達距離は同じ
・投射角45°で水平到達距離は最大

次回 力とは何か

黒沼先生
黒沼先生

「力」が欲しいか……。

波多野さん
波多野さん

へ?

光井くん
光井くん

は?
先生、いい大人が、やめてくださいよ。

黒沼先生
黒沼先生

うん……。ごめん。ちゃんとやるよ。
次回から、物体の運動を変化させる原因である「力」について考えてみよう。

光井くん
光井くん

ようやく力学の「力」に入るんですね。

黒沼先生
黒沼先生

その前に君は、今日使ったボールを片づけておきなさい。

光井くん
光井くん

さっきの今で、よくそんな態度が取れますね。

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